Aさんは先日父親を亡くしました。相続人はAさんと母親と兄の3人です。
父親は遺言は残していません。相続財産は父と母が暮らしていた実家と預金が100万円ほどあります。
Aさんは自己破産を検討していますが、自己破産をすると相続財産の一部(Aさんの相続分)が破産手続きで処分され、家族に迷惑をかけることになるので、相続放棄をすれば良いのではないのかと思っています。
自己破産をした場合でも相続放棄はできますか。
Aさんは相続放棄期間内であれば、破産手続開始決定の前後を問わず、家庭裁判所に申述を行うことによって相続放棄をすることができます。しかし、相続放棄の時期が破産手続開始決定の前後によって効力が変わるため注意が必要です。
・破産手続開始決定前に相続放棄をする場合
相続放棄をすることでAさんは初めから相続人ではなかったことになるため、父の残した相続財産は母親と兄の2人で分けることが可能です。破産手続きが相続財産に影響を与えることはありません。
この場合、Aさんに相続財産以外に財産がなければ、破産手続きも費用負担も少なく、手続き期間も短くなる「同時廃止」となる可能性が高いでしょう。
・破産手続開始決定後に相続放棄をした場合
破産手続開始決定後に相続放棄をしても、限定承認の効力しかないとされています。(破産法第238条1項)
限定承認では、Aさんの相続財産で父親の債務を弁済し、プラスの財産があればそれを相続します。そして、相続した部分は破産管財人の管理処分の対象の財産となり、債権者への配当に充てられることになります。
この場合、Aさんの破産手続きは「管財事件」となる可能性が高くなります。
破産管財人の報酬なども発生するため手続き費用も高くなり、手続き期間も長くなるため、Aさんの負担も大きくなるでしょう。
また、Aさんの借金の額や相続する財産の額によっては支払い不能ではないと判断され、自己破産以外の手続きの検討が必要になる可能性もあります。
自己破産をする場合でも破産の申立て時期や、相続放棄の期間などに注意をする必要があります。
なお、相続発生が破産手続開始決定後であれば、破産手続開始決定後に得ることになる財産は全て破産者が自由に管理処分できる財産であるため、Aさんは相続人として通常通り相続分を受取ることが可能です。
自己破産を検討しているが相続財産がありどのような方法が取れるかよく判らないという方は、当事務所にご相談ください。
司法書士 永野昌秀