Aさんは借金の返済が不能となり、自己破産を検討しています。
Aさんは現在アパートに住んでおり、家賃の滞納などはありません。
自己破産をした場合には一定の財産を手元に残せると聞いていますが、Aさんが自己破産をした場合、借りているアパートの敷金はどうなりますか。
Aさんにある程度の財産があり管財事件になった場合。
Aさんにある程度の財産(20万円以上)がある場合、破産手続開始決定と同時に破産管財人が選任され、それ以降Aさんの財産は破産管財人に管理処分されることになります。
敷金を返してもらう請求権のことを「敷金返還請求権」といいます。
敷金が返ってくるのは賃貸借契約が終了し、部屋を明渡したときになります。
破産手続開始決定の時点では、まだ敷金返還請求権は現実に発生しておらず、敷金返還請求権は「将来の請求権」ということになりますが、この将来の請求権も破産管財人の管理処分の対象になる財産とされています。(破産法第34条2項)
また、敷金返還請求権は差押が禁止されている債権ではありませんから、破産者が自由に管理処分できる財産(自由財産)にはなりません。したがって、自己破産すると、原則として敷金は破産管財人の管理処分の対象になるということになります。
しかし、敷金の返還をしてもらうために、部屋の賃貸借契約を解約しなければならないとすると、破産者は住む場所を失い、経済的再建が害されるおそれがあります。また、現金については99万円までが自由財産とされていることとの均衡などから、法律で定められた自由財産以外にも、一定の財産は破産者の自由財産として扱う運用がされています。
この一定の財産は、20万円以下の預貯金や生命保険の解約返戻金などがあたりますが、個人の居住用家屋の敷金返還請求権もこの運用の対象になっています。
(運用であるため各裁判所により異なりますが、例えば東京地裁では個人の居住用家屋の敷金債権(敷金返還請求権)は全額自由財産とされる運用がされています。)
Aさんは自己破産をしても、賃貸アパートを明渡して敷金返還請求をさせられ、返ってきた敷金を処分されてしまう可能性は低いといえるでしょう。
次回はAさんにめぼしい財産がない場合の同時廃止事件との関係について書きます。
司法書士 永野昌秀