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自己破産で遺産分割協議が問題となった事例(2)

 

前回は、遺産分割協議を取り消された事例を紹介しました。今回は取り消されなかった事例を紹介します。

 

Aさんは平成21年7月に父親を亡くしました。
母親はすでに亡くなっており、相続人はAさんと弟の2人でした。
Aさんと弟は平成22年1月に、亡父を被相続人とする遺産分割協議を行い、Aさんが取得した財産は約2億円、弟が取得した財産は約2600万円でした。

 

その後、平成22年5月頃に弟は、弁護士に債務整理を委任し、支払を停止しました。平成23年6月、弟の破産手続開始決定がされ、破産管財人が選任されました。

 

破産管財人はAさんに対して、遺産分割協議のうちAさんの法定相続分(今回の場合は財産の2分の1)を超えて取得した部分が、破産者の支払い停止(平成22年5月)の6か月以内にした詐害行為(債権者を害する目的で財産を減らした)に当たると主張して、否認権を行使(減った財産を破産者に戻すように請求)するとともに、超過取得部分相当額の約9256万円の支払請求の訴訟を提起しました。

 

この事例について、平成27年11月9日の東京高裁は、
・相続人には「遺産分割自由の原則」があるため、基本的にはこれが尊重されるべきである。
・遺産の分割は一切の事情を考慮して行われるものである。
・破産者が遺産分割協議によって少額しか相続財産を取得しなかったとしても、一切の事情を考慮した結果かもしれないため、詐害行為だと直ちに認めることはできない。
・相続人が将来遺産を相続するかどうかは、相続開始時の遺産の有無や相続の放棄によって左右される極めて不確実な事柄のため、相続人の債権者が債務者に相続を期待するのは不適当である。
・遺産分割協議は原則として無償行為(破産者が自己の財産を無償で他人に上げてしまうこと)には当たらない。ただし、遺産分割を口実にして、債権者を不当に害する財産処分であると認められるような特別の事情があるときは、否認(破産者から財産を受取った者に対して返却を求める)の対象にあたる可能性がある。
と判断しました。

 

判決に至るまでには具体的な事情が詳細に検討されます。
今回の事例については、債権者を害する意図により遺産分割協議が行われたのではなく、相続に関する一切の事情を考慮して遺産分割協議が行われたと判断されたため、遺産分割協議は取り消されませんでした。

 

これに対し、前回の事例では債権者を害する意図が強いと判断されたため、遺産分割協議が取消されることとなりました。
(前回の事例については「自己破産で遺産分割協議が問題となった事例(1)」を参照してください)

司法書士 永野昌秀

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